
張り子職人
郡山市西田町のデコ屋敷と呼ばれる集落で郷土玩具をつくる家の一つ、橋本広司民芸の当主。15歳で家業に入り、以来、デコ(張り子人形)をつくり続けてきた。職人としてのキャリアは60余年。地域に伝わるひょっとこ踊りの名人でもある。

7割くらいの方が
お客さん寄ってくんだよ
物事がわかってきたら崩すんだよ、7割くらいで抑えとく方がお客さんは寄ってくんだよ
10割だと「おお!」って言われるだけでお客さん逃げるんだよ
崩しがうめえんだよ、昔の人は。うまくまとめないで、おやっと思わせたり、ぐうっと人間の心に入ってくるような崩しをするんだよなあ




春が一番だね、ここは
これ俺が植えた桜だ、その上も、その裏もずっと俺が植えた
30年、40年前かな、桜は好きだね、パッと咲いてパッと散って。俺も早く散りてえなと思うんだけども、はははは
あの天神さんの周りの桜も生まれた時からあって、これに励まされて生きてきたのよ




筑波の寛太郎、いいよ
普段は寂しいからラジオ流してるね
あとは演歌を聴いたりね、俺は歌が好きだから、演歌大好き
福田こうへいとかね、民謡歌手の
民謡がいいよ、今はね福田こうへいの筑波の寛太郎、それがいいのよ




干支によって手間違う
この虎の木型も古いんだよ
こういう古いのは100年以上経ってる
先祖が土蔵に残したのが800点以上あっかな
木型が一番大事、昔から売るなよって言われてきたねえ
干支によって手間違うけど
虎は手間かかるね、はははは
でも虎が一番あれだべね、いいね
羊とか蛇とかは半分くらいしか売れねえ
ねずみも駄目だった、そこら辺にいっぱい余ってんだ
灯籠に刻まれた文字
ここが代々のお墓で、江戸時代の人から
先祖がここにずっといるわけだ
あそこに灯籠あっぺよ、素晴らしい文字が書かれてあんだよ
何て書かれてるか調べてもらったんだ
そしたら、昔の人の息子だかなんだかがあげた灯篭なんだね
「自分は放蕩してあちこち遊んだけど
あなたたちに育ててもらって今の自分があるって気づいた」
というような言葉だったんだよ
いやあ、調べてもらって良かった


昔はどの家でも
デコつくってたんだ
昔はどの家でも
デコつくってたんだ
うちの親父はヒロキチ、その前はヒロサダ
江戸時代はヒロエモンを世襲してたわけだけども
明治に入って自分の名前でやり始めたんだよ
息子はマサジで、ヒロは入ってないね
ここの集落は、昔はどの家でもデコつくってたけど
今4軒だけになっちゃって
俺は17代目になるんだけど
本家大黒屋さん、本家恵比寿屋さんから分家して
ひとつの集落になってっからこの辺はみんな親戚だ
いやでもなんでも
やんなきゃならない
いやでもなんでも
やんなきゃならない
うちは10歳から筆持たせられるんだよ
そうすっと子どもだから覚えてくるわけね
中学卒業したら、裸足で田んぼ行って、鍬で耕して
生活と仕事が一緒になるんだよ
最初はだるまつくって、体塗るの覚えて
顔は親父が描いて、周りの模様描いて親父と合作でやる
これは俺だけの仕事じゃねえんだ
先祖の仕事なんだ、受け継ぐってことが一番大事なんだよ
先祖から受け継いで、今の世が成り立ってるわけだから
静的動と動的静
静的動と動的静
やることは同じね、ひょっとこも筆も同じ
筆は静的動なんだよ
んで、ひょっとこは動的静なんだよ
ひょっとこやってる時は動いてるようでも
心は静まっててお客さんどこまでウケてるかなあって見てる
突拍子もないことやんないと、ウケねえから
筆動かしてる時は一番幸せだね
仕事やってるのが楽ね、筆運んでればいいんだから
そうすっと心が定まってくっから、充実感出てくる
ちゃんちゃん
ちゃちゃちゃーん
昔は小正月っていって1月14日の夜にやってたんだけど、
今は5月の最後の日曜日に、舞台つくってデコ祭りってのをやるわけ
子どもの頃から、じいさまの芸を見てたけど、5歳頃からだな、大きくなったらひょっとこやっぺと思ってたんだよ。面白いっていうかね、ちゃんちゃんちゃちゃちゃーんって、こう
1時間も2時間もやってると、だんだん心が晴れてくっぱい
ちゃんちゃん
ちゃちゃちゃーん
川の石さ俺が描いた
この石面白いばい。だから絵を描いたのよ、一昨年かな
面白い岩だなって思って、次々描いて、まだ綺麗に残ってるね
あの言葉はね、雲も水も形がない、ただ心をからっぽにして大自然のままに深くじっとして、気がついたことをひょっとこで表すと、そういうことを書いたんだね
川の石さ俺が描いた
鼻で始まり
目で終わる
まずは鼻から描いてくんだね
どっからでも構わないんだけど、やってるとだいたい描く順序一緒になってくるね
一番早くできる、色の使い方ってのがわかってくるわけだよ
昔のデコ(張り子人形)を見てると、先祖もたぶんこういう流れでやってたなってことがわかるようになるんだよ
ああ、「わざと崩してるな」とか「遊んでるな」とか、それに気づくと、ああ面白えなと思う
最後はやっぱり目だね
全部、どの人形も目が最後だ
体とか模様描いてるうちに、そのバランスから目が見えてくるわけ、最後に目でバランスとるんだ。最初から目にいっちゃうと大変なんだよ
わーってやると
おおーってなる
ここでひょっとこ踊りするといいんだよ
幸せだと思うね、ここで暮らせて幸せ
若い人みんなに師匠師匠なんて言われっけど、
俺、気も弱いから、困っちゃうんだよ
ひょっとこのお陰で、いろんなところ呼ばれて行ったんだよ。ワシントンのスミソニアン博物館に呼ばれたり、ヒューストンやハワイのマウイ島、行きたくねえっつっても来てくださいって言われるんだから、ありがたい話だ
英語話せなくても大丈夫だね
これかぶってわーってやると心が真っ白になるからね。そしたら、お互いにおおーってなる
これ世界に通じるから、海外に行く時なんかは、このお面持っていって、なんかの時にやるとみんな喜ぶ。これに励まさっちんだよ
昔のはなんか、凄いんだよ
先祖がつくったデコが全国の民芸館とかに保存されてるんだよ
こういう顔見ると瑞々しいべよ、これは先祖がつくったものだ、俺には描けねえ
つくった人間の我が見えないんだよ、これは、分別を通り抜けて自然と一体になるような心境をわきまえないとできねえんだ
花より根っこ
桜の根っこ見る人いねえんだよ、根っこを見てみろ、価値がよくわかっから、この木の根っこなんか大したもんだ
隙間を埋めるように新しい枝が出てくるんだよな、うまーくできてる、大したもんだよ桜は、まとまるようになってるんだよ、自然は間違いねえ。人間だけだよ、「夏は暑い」って文句言ってるのは
余計なことだって
気づくんだよ
俺はこうやりたいって、若い頃はやってみるんだよ
でも、やってみると、あ、こういうことは余計なことだってことに気がついてくるんだよ
先祖はこういうこと考えてやってたのかあ、なるほどそういうことかって気がつくってことが大事なんだよ、体全体で、ああ!わあ!これか!ってのは忘れねんだよ
プロフィール

橋本広司民芸 / 張り子職人
橋本 広司(はしもと ひろじ)
郡山市西田町のデコ屋敷と呼ばれる集落で
郷土玩具をつくる家の一つ、
橋本広司民芸の当主。
15歳で家業に入り、
以来、デコ(張り子人形)をつくり続けてきた。
職人としてのキャリアは60余年。
地域に伝わるひょっとこ踊りの名人でもある。

